教養や文化をもう1回再分配する
「夕日を見たことがない子どもが増えている」っていう話。聞いたことありますか?
いえ。そうなんですか?
そうらしいですよ。でも夕日ってなくならないじゃないですか。
ですよね。
なぜ見たことがないかというと、夕日って意識しないと見えないそうで。
意識しないと見えないですかね。
たとえばお母さんが夕日を見ながら「きれいだね」って言うと、「夕日というのはきれいなものなんだ」という感性が育つそうです。
なるほど。そういうことですか。
感性って最初からあるわけじゃなく、育てないとだんだん劣化していくそうです。
そう思います。常識と同じで感性って身に付けていくものですよ。人生を積み重ねた結果できあがる物差しみたいなもの。
「夕日を見たことがない子供が増えてる」ということは、日本人の感性が劣化してるってことですよ。
「感性」≒「教養」だったり、「感性」≒「文化」だったりすると思うんですよ。この教養とか文化が今めちゃめちゃ劣化していっています。
ですよね。
お金の再分配は簡単なんですけど。感性の再分配って、めちゃめちゃ難しい。
どういう意味ですか。
マーケティングをやって、インサイドセールスをやって、営業して受注して、ストック収入フロー収入があって、それを再分配するのはめっちゃ簡単なんです。
いやいや。難しいですよ(笑)
まあ簡単じゃないのかもしれないですけど。でも仕事を通じて「教養や文化をもう1回再分配する」って至難の業ですよ。
そんな会社はほとんどないでしょうね。
ないと思います。でもこれからは必要です。
遺跡って、世界のどこに行っても壁画や装飾品があるんですね。上手に絵が描けるとか、きれいな装飾品をつくれるとか、昔は重要な役割だったんでしょう。
そう思います。いまは「お金にならないことには価値がない」と思っている人がすごく多いですけど。
「絵が描ける?単なる趣味でしょ?」みたいな。
「それ売れるの?」みたいな。
「マネタイズはどうするんですか?」って、すぐに聞いてくる経営者がいますよね。
多いです。
マネタイズできないなら聞く必要のない話だと思っていて。
「受験勉強に美術や音楽が必要ない」と思ってる人と同じですね。「まあ、受験には関係ないよね」みたいな。
同じですね。
要は左脳ですよ。データやデジタルの引力が今めちゃくちゃ強いので。「数値がこうなっているから、こうしましょう」みたいな。
確かに。そのタイプの人ってデータやエビデンスを重視しますね。
「ここのPVが少ないから、こういうふうに改善してコンバージョンをこうしましょう」とか。めっちゃ説得力があるんですけど。
数字は嘘つかないイメージなので。
ただ、それだけだと大企業と同じ市場で戦うことになります。コモディティ化していく中で生き残れなくなる。
生き残るには何が必要ですか。
やっぱり「自分たちだけの価値」みたいなのがないと。それって感性じゃないですか。
数字やデータではない何かですよね。
美術や家庭科から醸成される教養であったり文化であったり。右脳的な人間らしさって、そこから生まれてくるものだと思う。
そうかもしれません。
「AIが発展したら人間は何をするんだ?」って話になるじゃないですか。
なりますね。仕事がなくなるとか。実際どうなっていくんでしょう?
お金にならないと思っていた落書きがまたお金になると思う。
落書きがお金になるんですか?
なぜなら、お金になるアートはAIが短時間でつくる時代になるから。
なるほど。お金にならないものが逆に価値が出てくると。
「何をやったら価値になるのか」という部分が、すごい勢いで変わってきてる。
今は国語・算数・理科・社会が主流ですけど。昔は音楽・美術・体育ってもっと価値があったんでしょうね。
「裁縫ができる」とか、「上手に歌を歌える」とか、「踊れる」とか、「力持ち」とか。生活に直結した能力が重宝されてたはずです。
理科や社会なんて生活に必要なかったでしょうし。有名な哲学者も「仕事もしないで勉強ばかりやって」とか言われてたかもしれません(笑)
今お金になってるスキルなんて、昔は仕事として認められてなかった気がします。
いつの間に逆転しちゃったんでしょう。
資本主義の発明あたりじゃないですか。
この先AIによって再逆転が起こる可能性はありますか。
あると思います。
そこに対応していくにはどうしたらいいんでしょう。
やっぱり自分の特徴とか得意を活かすことじゃないですか。
足の遅い飛脚なんて昔は絶対いなかったでしょうね。今は営業センスのかけらもない人が営業職をやってたりするけど。
それだけ感性が鈍ってるということですよ。
ちょっと鈍すぎる気がします。
資本主義社会では「こういう仕事があります」「給料はいくらです」って決めたものに、人をはめ込んでいくじゃないですか。
そうですね。
その時代が長すぎて感性が鈍っているんだと思います。
「得意なことが分からない」って人もいますもんね。ぜんぜん向いていない仕事をやっちゃってる人とか。
たくさんいますよ。そういう人たちはAI時代には淘汰されていくと思います。機能としての仕事ってAIが一番得意なところなので。
やはりAIは人間のライバルになるんでしょうか。
ライバルという感じではないと思う。スマートフォンを使っているごとく全員がAIを使うようになるので。
全員が?
はい。その上で二分されていくと思います。「AI×新しいことをつくる人たち」と「AI×指示どおりにやる人たち」に。
AIの指示通りの人たちってどういう人ですか。
ウーバーイーツとか。タクシーのGOとか。「ここに行ってこれをやってください」ってAIに指示されたことをやる人たち。
そういう仕事って増えてませんか。
これから先もどんどん増えていきますよ。