日本の中小企業は「もっと高く売れ」
先進国として必要なのはブランディングである
生田さん、イタリアに行かれたそうですね。
はい。実はイタリアって中小企業が多いんですよ。家族で代々やってる仕事が多かったですね。
「日本は中小企業が多すぎる」なんて言われていますけど、実は他の先進国も99%は中小企業なんですよ。
ただ規模的に200人以上の会社が多い。
イタリアは結構小さな規模の会社が多かったです。
フェラーリとかフェラガモみたいな会社はすごい規模ですけど。
小さな規模の事業ってたとえばどんな仕事ですか?
こだわりの商品を提供している靴屋さんとか。町の靴屋さん規模ですけど伝統的な商いがいっぱいある。
「知る人ぞ知るお店がたくさんある」っていうのがイタリアのイメージです。
日本の中小企業にも活かせそうなことってありましたか?
「人不足、値上げ、付加価値アップ」という課題を解決できそうなヒント。
人不足は同じですね。イタリアもオーバーツーリズムという課題があってバスの運転手さんが足りない。
もてなす側の体制が整ってないのは日本と同じ課題です。ただ学びのポイントはあると思いました。
それはどういうところですか?
彼らは付加価値創造で利益を上げていくことが得意なんですよ。
高く売るのが得意ってことですか?
そうです。実際にいろんなものが高い値段で売られていて。
これは決定的に日本が足りてない部分だと思うんですよ。日本の家族経営って安売りなイメージじゃないですか。
そうですね。町の飲食店も「安くて美味しいものをお客様のために」って感じ。
「サービス=値下げ」という図式ができてるじゃないですか。
「サービスしてよ」って「値下げしてくれ」ってことですから。
イタリアは違うんですか?
向こうは「体験価値を上げて高値で売る」のがサービスの基本ですね。
小さな町の靴屋さんであっても付加価値で利益を上げていく。いろんなものが高い値段で売れてました。
高くても買うんですか?イタリアの人たちは。
「誰がそれを買うのか」っていうところが学びのポイントなんです。地元以外の人が買ってるんですよ。
地元の人は人間国宝みたいなおじいちゃんが作った靴は買わないと。
買わないし買えない。めちゃくちゃ高いから。
つまり地元の人を相手に商売してないってことですね。
そうなんですよ。ワインとかもそうじゃないですか。ボルドーの5大シャトーなんて地元の人は飲まないですよ。
確かに。飲めないですよね(笑)
靴屋のお客さんは半分くらいアメリカ人でした。ちなみに1足70万円ぐらいします。
え!1足70万円?足に合わせて作ってくれるオーダーメイドですか?
そうです。店にハリウッドスターの木型とかあるわけですよ。
近所のもんじゃ屋さんにも有名人の色紙がありますけど。安いですよ(笑)
そこが大きな違いですね。
どこからその価格差が生まれるんでしょうか?
「自分たちはこういうこだわりの商品をハイクオリティで提供することを約束する」というブランドがきちっと世界中に届いてるわけですよ。そしてそこに強いファンがいる。
そのファンの人たちがわざわざイタリアまで靴を買いに来てくれると。
そう。フィレンツェまで買いに来る。
みんなフィレンツェという町のファンであり、その靴屋さんのファンでもある。
フィレンツェという街のブランディングも大事になってきますね。
すごく大事なポイントです。だけど日本の地方ってそいういうブランディングが弱いんですよ。
飲食も宿泊も安すぎるから本当のお金持ちが来ない。
セレブが地方に行くと「泊まるホテルがない」って言いますもんね。
そうなんですよ。1泊10万以下なんて泊まれないっていう。「馬鹿にしてんのか」みたいな。
本当のセレブって1泊100万ぐらいのホテルも平気で泊まるんでしょうね。
5万円のホテルなんて「泊まって大丈夫なの?」という感覚でしょう。
さすがに5万円払えば大丈夫でしょ(笑)
いやいや。それは日本人の感覚なんです。僕はずいぶん前にサンフランシスコに行ったことがあるんですけど。
東京が1万5000円ぐらいの時代に1泊4万円弱だったんです。
サンフランシスコは高いですから。
サンフランシスコのテンダーロイン地区っていうところなんですけど。
サーロインステーキ、テンダーロインの語源となった地域なんですけど。
テンダーロインといえば高級部位ですからね。高級住宅街ですか?
向こうに住んでる友達に聞いたら「そこはサンフランシスコの西成みたいなところだ」って言われました。
それで4万もするんですか?
それが世界の先進国の値段なんですよ。
何が言いたいかというと、日本人は価格に対する価値観を変えなくちゃいけないってこと。
小さな商売でもいいから「もっと高く売れ」と。