退職月の給与計算の方法と注意点【計算方法の具体例あり】
従業員の中に退職者が出た場合、給与支払いについては気を付けるべきポイントがいくつかあります。
計算方法はいくつかありますが、退職者が「いつ退職したのか」「自社の締め日は何日なのか」、そして「自社はどの計算方法を採用しているのか」によって従業員に支払うべき金額が変わるため、注意が必要です。
今回の記事では、退職月の給与計算について、基本給や社会保険料、税金等の項目に分けて具体的な計算方法や注意点を解説します。
退職月の給与計算をミスなく効率的に行いたい担当者の方はぜひ最後までご覧ください。
この記事でわかること
- 退職月の総支給額の計算方法
- 退職月の社会保険料・住民税の控除方法
- 退職者の給与計算で注意すべき点
こんな人に向いている記事です
- 退職者の給与計算方法を知りたい方
- ミスなく効率的に給与計算を行いたい方
目次
退職月の給与計算の基本
退職月であっても、基本的な給与計算の方法は通常の月と同じです。
具体的には、以下が基本的な計算式となります。
※基本給は当月分、残業代は前月分を支払っている場合等を除く
支払い額=総支給額(基本給+各種手当)-控除額(各種税金+社会保険料+会社独自の控除) |
勤怠の締め日が退職日であるのなら、総支給額は「普通に1か月勤めた場合」と変わりはありません。
その場合、社会保険料等の控除額だけ注意してください。
しかし、退職日=勤怠締め日ではない場合(例:勤怠締め日は15日だが、退職日は月末)には、総支給額も控除額も注意する必要があります。
次のセクションから、個別具体例を交えて解説します。
退職月の総支給額の計算方法
先ほどお伝えしたとおり、総支給額は基本給と各種手当で成り立ってます。
退職月の基本給は、暦日、該当月の所定労働日数、月の平均労働日数、どれを基準とするのかによって、計算方法が異なります。
退職を含む給与の日割り計算に法的なルールはなく、どの方法を採用するかは各企業の裁量に任せられおり、その計算方法はあらかじめ就業規則で定めておくべき事項となります。
従業員ごと・経理担当者ごとに計算方法が異なることは避けなければならないため、まずは暦日と所定労働日数、月の平均労働日数のうちどれを基準とするのか、自社の規定を確認しておくようにしましょう。
基本給を暦日で計算する場合
暦日とは、「午前0時から午後12時までを一区切りとする一日」のことです。
つまり「総支給額を暦日で計算する」とは、「その給与計算期間の実日数と、退職日までの実日数で計算する」を指します。
基本給×(退職日までの暦日/当該月の暦日数)=支給額 |
給与の締め日が月末の会社で、基本給が40万円の従業員が15日に退職する場合の計算式は次のとおりです。
40万円 ×(15日/30日)= 20万円
暦日で計算する場合には、退職日までの出勤日数にかかわらず、締め日と退職日がわかれば簡単に計算することができます。
基本給を当該月の所定労働日数で計算する場合
支給額を出勤日数で計算する場合、月給をその月の出勤予定日数(所定労働日数)で割って1日あたりの総支給額を計算したうえで、退職日までの出勤日数を掛けて支給額を算出します。
(基本給÷その月の出勤予定日数)×出勤日数=支給額 |
同じく、給与の締め日が月末の会社で、基本給が40万円の従業員が退職する場合を例として、具体的な計算方法を解説します。
この会社において、その月の出勤予定日数(所定労働日数)が20日間で、従業員が退職日までに11日間出勤していた場合の計算式は次のとおりです。
1日あたりの支給額:40万÷20日=2万円 15日間出勤の支給額: 2万円×11日=22万円 |
土日祝日などの休日分を数えないため、暦日を用いるよりも1日あたりの金額が高くなるのが特徴です。
月の所定労働日によって金額が変動するため、年末年始のある1月やゴールデンウィークのある5月等は計算に用いる所定労働日数が少なくなります。
※年末年始やゴールデンウィークが休みの企業の場合に限る
基本給を月平均の所定労働日数で計算する場合
ここまでご紹介した方法は、その月の日数によって金額が上下します。
一方、各月の日数格差をなくす方法として、月平均の所定労働日数を用いる計算方法もあります。
①年間所定労働日数÷12=月平均の所定労働日数 ②基本給÷月平均の所定労働日数×出勤日数=支給額 |
給与の締め日が月末、年間休日日数が111日の会社で、給与が40万円の従業員が退職する場合を例として、具体的な計算方法を解説します。
この会社の場合、月平均の所定労働日数は21.6日となります。
従業員が退職日までに11日間出勤していた場合の計算式は次のとおりです。
例:年間休日日数111日の会社で月給40万円の社員が10日出勤した場合
①365-111日=254日÷12=21.6日
②400,000円÷21.6×11日=203,704円(端数切上)
この計算式の特徴は、月ごとで1日あたりの金額変動がない点です。年間の所定労働日数を12ヶ月で平均化するため、月による損得が発生しません。
そのため、企業にとっても従業員にとってもフェアな計算方法になります。
ただし、「退職者はそれ以降の月の労働義務が無いため、月平均ではなく該当月の所定労働日数を用いるべき」という意見もあります。
退職月の手当はどう計算する?
支給項目の手当には、毎月変動するものと毎月変動しないものがあります。
このうち、毎月変動する残業手当や休日出勤手当については退職月であってもその他の月と変わらず支給すべき項目です。
対して、毎月変動しない家族手当や役職手当といった手当については、「基本給同様に日割り計算する」か「日割り計算せず全額支給する」か各社で判断が分かれます。
毎月変動しない手当の例
- 住宅手当
- 役職手当
- 営業手当
- 資格手当
- 出張手当
- 通勤手当 など
ただし、これらの毎月一定額を支払う各種手当については、基本的に日割り支給ではなく全額支給が望ましいとされています。
何故なら、住宅手当・役職手当などは、直接普段の業務遂行の成果として支払われるものではなく、従業員の生活の負担を軽減する福利厚生的な役割を担っているためです。
給与の日割り計算についてはこちら!
▼給与の日割り計算のやり方は?欠勤や手当はどうする?注意点についても徹底解説
退職月の社会保険料控除の計算方法
社会保険料は月ごとに発生するものなので、総支給額と異なり日割り計算は行いません。
しかし、退職月の給与からも同じく1か月分の社会保険料を控除すれば良いというものではありません。
退職月の社会保険料控除額を算出するには、退職日と資格喪失日の関係を理解するとともに、自社が社会保険料の翌月分を控除しているのか、当月分を控除しているのかを確認することが必要です。
退職日と資格喪失日の関係
社会保険料の資格喪失日は退職日の翌日となります。
つまり、退職日が月の末日の場合、資格喪失日は翌1日となり、翌月分の社会保険料が発生します。
そのため、退職日が月の末日となるのか、それ以外の日となるのかによって、社会保険料の発生が当月分までなのか、翌月分まで発生するのかが変わるのです。
翌月控除か当月控除か
社会保険料の控除方法としては、当月分の社会保険料を翌月の給与から控除する翌月控除と、当月分の給与から控除する当月控除の方法があります
法律上は翌月控除を原則としていますが、違反しても罰則などがないため、会社によっては当月控除を採用しているところもあります。
そのため、自社がどちらの方法を採用しているのかを確認しておくようにしましょう。
給与の支払いが末締めの翌月20日払いの会社を例として、どの月の社会保険料が控除されるのかを具体的に解説します。
この会社で、5月末日に退職した従業員がいる場合、退職月の給与の支払いは6月20日で、資格喪失日が6月1日となるため、発生する社会保険料は6月分までです。
そのため、翌月控除を採用している会社では、最後の給与から5月分と6月分の2か月分の社会保険料が控除され、当月控除を採用している会社では、最後の給与から6月分の1か月分の社会保険料が控除されることになります。
従業員の退職日が末日以外の場合、翌月控除を採用している会社では、1か月分の社会保険料が控除され、当月控除を採用している会社では、社会保険料は控除されません。
資格喪失手続きも忘れずに!
従業員が退職したときには、社会保険の資格喪失手続きを行う必要があります。
資格喪失手続きを行わないと、毎月自動引き落としされる各種保険料に退職者分が含まれたままとなってしまいますので注意しましょう。
社会保険手続きの目安
健康保険・厚生年金保険…退職日の翌日から5日以内 雇用保険…退職日の翌日から10日以内 |
退職月の住民税の取り扱い
住民税の納付は、前年分の所得に対する住民税を、翌年6月から翌々年の5月までにかけて支払うことになります。
住民税の納付方法には、従業員が自分で納付する普通徴収と、会社が代理として納付する特別徴収の方法があります。
特別徴収の方法により従業員の住民税を給与から控除している会社では、退職月の住民税の控除については注意が必要です。
1月1日から5月31日までの間に退職する従業員については、5月までの住民税をまとめて控除します。
6月1日から12月31日までの間に退職する従業員については、原則退職月の前月分までの住民税を給与から控除し、それ以降の住民税は退職者自身が普通徴収で支払うか、転職先の企業でこれまで通り給与天引きで支払います。
ただし、6月1日から12月31日までの間に退職する場合で、従業員からの希望があった場合には、翌年5月までの住民税を一括で徴収することになります。
この場合、最後の給与支払い日の翌月の住民税納付額が自動印字の金額から変わりますのでご注意ください。
また、従業員が退職したときには、該当の市町村に対して住民税の異動届を提出する必要があります。
こちらの手続目安は退職日の翌日から10日以内となっており、各市町村のHPで提出すべきフォーマットが公開されていますので、まずは退職者の住民税支払い先を確認しましょう。
退職月の給与計算の注意点
社会保険料や住民税については、まずは自社がどのように控除していたのかを確認する必要があります。
他にも、当月払いを採用している会社や、急な退職などで給与計算を適切に行うことができなかった場合、従業員に退職日を超えた分の給与を支給してしまう可能性があります。
特に、通勤手当は、定期券の購入などのため前払いで支給していることも多いため、退職月の給与については、過払いが生じないよう注意しましょう。
給与の過払いが生じてしまった場合には、退職後の従業員に対して給与の返還を求める必要があります。
計算ミスによって過払いが生じた場合には、退職した従業員との間で思わぬトラブルになることもあるので注意が必要です。
給与計算のミスについてはこちら!
▼給与計算のミスが多い原因と対処法・ミスを防止するためにやるべきこと
退職月の給与計算を効率的に行う方法
退職月の給与計算を効率的に行う方法として、クラウド型給与計算ソフトの導入がおすすめです。
コムデックでは、勤怠管理ソフトと連携でき、経費精算や会計まで連動できる「マネーフォワードクラウド給与」を推奨しています。
マネーフォワードクラウド給与では、従業員ごとに締日と支給日を設定できます。
そのため、退職月の給与を支払う場合、25日に前月の勤怠分の給与を支払い、末日(退職日)に今月分の給与を支払うといった計算も簡単に行うことが可能です。
加えて、給与明細を電子化できるため、退職後に郵送で送る必要がなくなるのもクラウド型給与計算ソフトのメリットです。
源泉徴収票もオンラインで確認し、自分自身で印刷してもらうことが可能となっていますので、退職後しばらくしてから「源泉徴収票を無くしたので再発行してほしい」という連絡が来る心配もありません。
総支給額、控除額の基本を押さえて退職月の給与計算を正確に行おう
退職月の給与計算も、基本的な部分は通常月の給与計算と同じです。
通常月の給与計算方法を基準としつつ、自社のルールや退職日から、総支給額や控除される社会保険料の額を1つ1つ計算していけば、問題なく計算することができるでしょう。
とはいえ、従業員の数が多いなど、個々の従業員の給与計算に苦労されている会社では、クラウド型給与計算ソフトを導入することをおすすめします。
クラウド型給与計算ソフトを導入することで、退職月の給与計算だけでなく、給与計算業務全般をミスなく効率的に行うことが可能になりますので、御社でもこの機会にクラウド型給与計算ソフトの導入を検討されてはいかがでしょうか?
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